2013年2月23日土曜日

アンティーク・ガラス豆百科 -その3-

昨日は鉛クリスタルまでで中断してしまいましたので、続きになります。

【成分によるクリスタルの種類と特徴】(続)
鉛を含まないクリスタルには、カリクリスタル、バリウムクリスタル、チタンクリスタルなどがありますが、アンティック・ガラスとしてはカリウムを主要成分とする『カリクリスタル』が殆どです。
カリクリスタル(カリガラスともいう)は、16世紀末にボヘミア(現在のチェコ)で開発されたブナの木やシダの木灰を原料に用いるガラスです。
17世紀以降近代までのいわゆるボヘミアン・グラスの別名とも言えます。ボヘミアでは従来イタリアのジェノバからソーダ灰を輸入してガラスを作っていたのですが、輸送中に略奪されて届かない事が多かったのでこれを中止し、代わりに地元の豊富な森林の木灰を材料に使うことによって無色透明に近い良質のボヘミアン・クリスタルと呼べるガラスが開発されたという訳です。
透明度が高く、硬いボヘミアン・クリスタル(カリクリスタル)はボヘミア伝統の水晶彫りの技術を応用したグラヴュールに適し、ガラスの世界に画期的なジャンルが拓かれると同時に、これがハプスブルグ家の広大な領域で愛好されるようになり、ヨーロッパの宮廷社会で爆発的な人気を獲得することになったのです。
それまでガラスの代名詞的存在であったヴェネツィアン・グラスに対するボヘミアン・グラスの勝利をもたらしたのがカリクリスタルの発明だったともいえるでしょう。
17~18世紀のヨーロッパはボヘミアン・グラスの時代で、この時期に豪華なグラヴュールやカットを施した無色の上品なグラス類や、ゴールドサンドウィッチなどの格調高い逸品が多く作られましたが、19世紀には鉛クリスタルに押され気味で衰退期に入り、この不況を打開するために色々な技法が考案され、これでもかというようにドンドン派手な色ガラス器が作られて品格を落とすことになったといわれますが、結果ガラス工芸のヴァラエティを豊かにすることに貢献したともいえるのではないでしょうか。
現代ではボヘミアン・クリスタルも多かれ少なかれ鉛を含有するものが多く、少し前まではそれを『売り』にして鉛24%以上含有を表示するシールが貼られたものが見られました。最近では鉛を使わないのがエコロジックであるという風潮から、カリクリスタルであることをむしろ『売り』にするケースも見られます。
鉛クリスタルに比べて、重量が軽く、屈折率はやや低く、打音も軽く余韻が短かめです。鉛クリスタルのキーンと張りつめた感じに対して、生地の硬さに反して柔らかで優しい感じがします。
有名なカリクリスタル・グラスメーカーとしては、ロブマイヤー、テレジアンタール、モーゼルなどがあります。

色被せカットグラス      グラヴュールと金彩の酒器セット  

テレジアンタールの高脚グラス(現代物)

ロブマイヤー のエナメル彩テーブルウェア 1900年頃(クリスティーズ・オークション)

モーゼルの カット・グラヴュール花器 1900年頃

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